室内でも多い転倒、40~50代から増加

屋外だけでなく、室内でも多い転倒。高齢者はもちろんだが、40~50代から目立ち始めるという。命に関わる頭部外傷や骨折の危険がある。在宅時間が増えたこともあり、注意したい。


誰しもちょっとした段差や階段につまずいたり、ぬれた道で転んでしまったりした経験があるだろう。東京消防庁の2019年の救急搬送データをみると、日常生活での事故で最も多いのが転倒で全体の7割近くを占める。年齢別では65歳以上が目立つが、40~50代から増えていく。


「転倒の主な原因は加齢、病気、運動不足」。日本転倒予防学会の武藤芳照理事長はこう強調する。筋力や柔軟性があり、関節の可動範囲も広いうちは転びそうになっても踏みとどまれるが、加齢とともにこうした力が弱まっていく。視力や聴力の衰えも転びやすさにつながる。パーキンソン病や糖尿病などは運動や感覚の機能を低下させる。


武藤理事長は「運動不足によって脚力が衰えると、転倒のリスクが高まる」と警鐘を鳴らす。1年以内に2回以上転んだ経験があったり、歩く、またぐなどの動作でふらついたりする人は脚力や体のバランスを保つ力が下がっている可能性が高い。


転倒によって骨折すれば完治までには時間がかかる。高齢であれば、寝たきりの原因にもなりかねない。軽い転倒にみえても、命に関わる場合がある。注意が必要なのが血液をサラサラにする抗血栓薬を服用する人。転倒で出血すると止まりにくいからだ。特に高齢者は転倒の衝撃で頭の中の血管が切れやすい。


脳神経外科を専門とする山口大学大学院の鈴木倫保教授(特命)は「加齢によって頭蓋骨と脳の隙間が広がると、転倒の衝撃による脳の動きも大きくなり、血管が切れやすくなる。頭蓋内で出血しても隙間に血がたまり、自覚症状がすぐには出ず、気づくと危険な状況になっていることがある」と話す。


軽い転倒でも、普段と違う様子があればすぐ医療機関を受診したい。抗血栓薬を服用中の場合は医師に薬の名を伝える。外出時に転倒した場合に備えてお薬手帳を携帯するのも大切だという。

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転倒は屋外で起きる印象があるかもしれないが、実は室内も多い。改めて東京消防庁の救急搬送データをみると、発生場所の半数近くは住居。道路・交通施設の4割弱を上回る。自宅に潜む危険を意識する必要がある。


武藤理事長は転倒しやすい場所を「ぬ・か・づけ」と呼んで注意を促している。ぬれたところ(ぬ)、階段や段差(か)、片付いていないところ(づけ)を指す。日常の注意点としては「足のケアをしよう。外反母趾(ぼし)や巻き爪・陥入爪などがあると、歩きにくくなって転倒しかねない」と助言。つまずくことが増えてきたなと感じたら、つまずいた場所や時間帯、そのときの様子、服装などを日記につけるとよいという。つまずきやすい状況を自覚でき、転倒予防の指標になるためだ。


産業医科大学の佐伯覚教授(リハビリテーション医学)は「まずは適度な運動やストレッチで筋力と柔軟性を維持すること。階段昇降やウオーキング、短時間でほとんどの関節を使った動作ができるラジオ体操がよい」と勧める。


食生活では「筋肉の材料となるタンパク質が多い肉類、骨を丈夫にするビタミンDが豊富な魚類をしっかりとってほしい」と促す。脱水でめまいを起こして転倒してしまうのを防ぐため、水分補給もこまめにしておきたい。


高齢者の転倒リスクはよく指摘されるが、働き盛りの世代でも一歩間違えば大ごとになりかねない。転びにくい体づくりを意識したい。


https://style.nikkei.com/article/DGXZQOKC281JK0Y1A920C2000000